医療法人の契約する生命保険は節税できない??

医療法人が決算を迎えた時のあるエピソード

税理士「理事長!これはちょっとまずいですよ!」

理事長「何がだね??」

(以下、理:理事長 税:顧問税理士)

税「生命保険ですよ!理事長が医療法人で加入していらっしゃる生命保険ですが、これは終身保険ですよね?」

理「何だったかな…そうなのかい?」

税「先ほど保険証券で確認したところ、間違いなく終身保険でした。医療法人の支払った終身保険の保険料を損金(経費)で処理してらっしゃる。これはダメですよ!」

理「医療法人の支払っている生命保険料は、全部経費に入れられるんだろ!?」

税「いいえ、生命保険でも、その保険種類によって法人の経費処理が違ってきます。貯蓄型の保険でも損金として計上できるものもあれば、資産計上するものもあるんです。」

理「…そうなのか、私は全部損金にできるものだと思っていたのだが…」

保険種類、契約形態で経費処理は変わる

医療法人が理事長(役員)や従業員に対して生命保険を契約した場合、通称「経営者保険」だとか「役員保険」、または「福利厚生プラン」などと呼ばれていますが、これらの保険を総称して「事業保険」と呼んでいます。

この「事業保険」を税金対策、医業保障や役員退職金の準備として使用する際、実は非常に有効な手段となります。

しかし、前ページの理事長と顧問税理士とのやり取りのように、生命保険の経費処理を間違えているケースが散見されます。というのも、実は保険種類だけでなく、契約形態によっても経費処理が変わってくるのです。

本編では、医療法人に代表的な「事業保険」とその経費処理、そしてそれぞれの契約形態の目的・メリットについて解説させていただきます。

第1章 養老保険の経費処理

養老保険とは保険商品の中でも貯蓄性の高い商品です。
(養老保険の定義とメリット・デメリットの詳細については、別記事の「医師のための保険の選び方」を参照ください。)

契約形態① 〔法人税基本通達9-3-4(1)〕
⇒この形態での主な加入目的は、理事長(役員を含む)や従業員の退職金準備となります。ただし、医療法人が支払った養老保険の保険料は全額資産計上となるため、損金算入は認められません(経費に入れることはできません)。

契約形態②  〔法人税基本通達9-3-4(2)〕
この形態で契約することはほとんどありません。なぜなら、医療法人の支払った保険料が役員・従業員の給与の上乗せとなるため、被保険者である役員・従業員にとって所得税・住民税が増加してしまうからです。
医療法人としては支払った保険料を給与として損金算入することができますが、給与所得が増えることにより、役員・従業員から所得税・住民税を源泉徴収する必要が生じます。

契約形態③  〔法人税基本通達9-3-4(3)〕
⇒「福利厚生プラン」または「ハーフタックス」などと呼ばれている形態です。
役員・従業員が亡くなってしまった時の「死亡退職金・弔慰金」、および途中退職・定年退職時の「生存退職金」準備ができます。
さらに、貯蓄性の高い養老保険でありながら、医療法人の支払った保険料のうち1/2は資産計上となり、1/2は福利厚生費として損金算入することができるという点で多くのメリットを享受できる形態となります。

ただし、以下のような場合では1/2が認められないため注意が必要です。

  • 理事長および役員のみを対象として加入した場合
  • 特定の従業員のみを対象として加入した場合
  • 女性と男性で保険金額に格差をつけて加入した場合
  • 一時払・前納で一度に1/2損金算入処理した場合
  • 同族関係者が過半数以上加入している場合のその同族関係者について

終身保険の経費処理

終身保険とは保険商品の中でも死亡保障と貯蓄性の両方をバランス良く備えた商品です。(終身保険の定義とメリット・デメリットの詳細については、別記事の「医師のための保険の選び方」を参照ください。)

加入目的は理事長(役員を含む)や従業員の退職金準備、そして理事長個人の相続対策資金準備となります。

終身保険の経費処理については法人税基本通達には記載がありませんが、前述の養老保険に準じて処理することとなっているため、上記の通りとなります。

定期保険の経費処理

定期保険とは一般的に「掛け捨て」と呼ばれており、貯蓄性がない代わりに、医療法人の支払った保険料は期間の経過に応じて損金算入が認められています。(定期保険の定義とメリット・デメリットの詳細については、別記事の「医師のための保険の選び方」を参照ください。

⇒上記いずれの形態でも、加入目的は役員・従業員が亡くなってしまった時の「死亡退職金・弔慰金」となります。
(※)役員または特定の従業員のみを被保険者としている場合は給与課税となります〔所得税基本通達36-31の2〕。そのため、役員のみの加入は契約形態①とするのが一般的です。

長期平準定期保険の経費処理

長期平準定期保険とは、一般の定期保険に比べて保険期間が特に長くなっている定期保険のことをいいます。「90歳満期」や「100歳満期」といった長期の保険期間となり、具体的には以下の2つの条件を両方とも満たした定期保険のことを指します。

長期平準定期保険は一般の定期保険に比べて保険期間が長いため、保険料の前払部分(将来の保険料に充当する部分)が多いため、それが途中解約の時に解約返戻金として戻ってきます。支払った保険料に対する解約返戻金の返戻率が100%を超えることも少なくありません。

そのため、主には理事長(役員)の死亡退職金・弔慰金、そして理事長個人の生存退職金として使用されます。

まとめ

本編では医療法人に代表的な事業保険4種類について解説してきました。

勤務医であっても医療法人であっても、大切なのはその加入目的です。

例えばですが、

  • 役員の退職金を準備しておきたい→医療法人で養老保険に加入しよう
    ⇒役員のみの加入の場合、どの契約形態をとっても損金算入は認められないが大丈夫か?本当に医療法人で加入する必要があるか?
  • 万が一のために手厚い死亡保障を準備したい→安い定期保険に加入しよう
    ⇒損金算入は認められるが期間はどのくらいの期間あれば安心か?
  • 税金対策をしたい→とにかく損金算入できる保険であればいい
    ⇒損金算入できても1円も法人に残らない保険で大丈夫か?
    ⇒税務上のルールは厳守できているか?

事業保険は医療法人にとっても多くのメリットを享受できる仕組みです。

一方で、保険種類や契約形態によるルールが細かかったり、税務の面で否認されてしまうケースもあったりするため、生命保険の専門家または生命保険の経費処理に強い税理士と進めるのが良いでしょう。

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