【クリニックM&A】買収するターゲット企業の分析方法

クリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人のM&Aを解説していくシリーズ第4回です。本シリーズでは、実際に買収先を選定し交渉、契約に至るまで時系列でわかりやすく解説しているので、ぜひ他記事もご覧ください。

  1. 【クリニックM&A】フィナンシャルアドバイザー(FA)の役割とは?
  2. 【クリニックM&A】買収先企業へのアプローチ時の4つの方法
  3. 【クリニックM&A】クリニックの買収提案書の作成とコンタクト時の対応のコツ
  4. 【クリニックM&A】買収するターゲット企業の分析方法(本記事)
  5. 【クリニックM&A】医療機関買収時の価格計算・バリュエーションとは?
  6. 【クリニックM&A】医療機関のバリュエーション、DCF法を解説!
  7. 【クリニックM&A】医療機関のバリュエーション、時価純資産法

買収のターゲットとなるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人が決まり、そのターゲット企業に買収の提案を持ち込むためのコンタクトを行って、相手企業がM&Aに前向きであることが確認できたあとは、いよいよターゲットとなるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人の分析が始まります。

とくに持ち込み案件に対しては、相手側のFAによる情報パッケージを見れば、ターゲット企業の概要を把握することができます。しかし、買い手企業がアプローチをしていく場合には、買い手企業側でターゲット企業の全体像を分析・整理する必要があります。

この本記事では、M&A、事業譲渡が成功するための買収ターゲット企業の分析方法を解説致します。

秘密保持契約契約後に入手できるデータ

秘密保持契約を締結すると、買い手企業はターゲットとなるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人をより詳細に分析するための基礎データを得ることができます。以下には、相手企業から獲得し整理すべき基礎データを挙げていきたいと思います。

  1. 企業概要… 社名、本社所在地、代表者、株主構成、従業員数、主要な事業所・工場、売上高、資本金、純資産
  2. 事業概要… 診療科目、事業系統図(商流)、主要取扱商品、主要販売先、主要仕入先、取引条件
  3. 組織構造… 役員構成・略歴、組織図、各組織の人数、ガバナンス体制、関係会社の概要
  4. 従業員の状況… 従業員数、平均年齢、平均勤続年数、契約形態、
  5. 業界環境… 市場規模、市場成長率、競合他社の動向、市場のシェア率
  6. 事業の状況… 研究開発、調達、製造、物流、販売、サービス、間接部門等、各事業機能の特徴
  7. 財務… 損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、キャッシュフロー計算書、セグメント別損益
  8. 固定資産… 所有不動産一覧、償却資産明細、リース資産明細、担保の差し入れ状況

秘密保持契約を締結した後に、今後の買収対象企業の調査・分析を円滑に、より正確に進めるために以上のような項目を最初の段階で確認しておきましょう。

各データは何の資料を参考にすれば良い?

以上に示したような情報を整理するためには、ターゲット企業に対して基礎的な資料やデータを提供してもらうように依頼しなくてはなりません。そのために必要となる資料にリストを以下にお示ししたいと思います。

各企業データの情報ソース

以上のような資料をターゲットとなるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人に提供してもらうことにより、ターゲット企業への初期分析をスムーズに行うことができます。

ターゲット企業の善し悪しは財務・事業・リスクの3つの軸で分析せよ!

秘密保持契約によりターゲット企業の情報を入手したら、買収先としての善し悪しの分析に入ります。この分析フェーズで着眼すべきポイントは大きく分けて3つあります。 “財務分析”・“事業分析”・“リスク分析”の3つです。このコラムでは、そのうちの2つである“財務分析”と“事業分析”について解説していきたいと思います。

①財務分析の着眼点はP/LとB/Sに注目!

まず最初に見るべきポイントは“財務分析”です。参考にする資料は売上や利益などが記載されているP/L(損益計算書)と、現金や借入金が記載されているB/S(貸借対照表)の2つが主に挙げられます。財務分析では、最低でも3期分できれば5~10期分の財務データを用いて行うのが望ましいです。というのも、短期間では見えないトレンドや傾向が、長期間の分析を行うことで見えてくることが多いからです。

P/L(損益計算書)の見るべきポイントは以下の3つです。

  1. 売上高および売上原価については、数量要因と単価要因の2つに分けて分析すること。
  2. 変動費については、売上比率で大きな増減がないか確認すること。
  3. 固定費については、金額に大きな増減がある場合はその要因を確認すること。

大きな増減がある項目に関して、増減が一時的なものなのか、あるいは長期的に今後も続く可能性があるものなのかを見極めることが大切です。

B/S(貸借対照表)の見るべきポイントは以下の3つです。

①回転の速い流動資産や流動負債は、財務指標分析によって、比率や回転率といった指標で分析する。
②売上債権や仕入れ債務については、取引先ごとに残高推移に大きな変化がないか確認する。
③棚卸資産に大きな増減がある場合は、粉飾決算の可能性があるため、その要因をできるだけ細かく確認する。
④固定資産や固定負債は通常、変動が少ないはずだが、大きな増減があればその内容を確認する。

B/Sは主に在庫の安定性や、返済可能な負債額かどうかなど、経営的に安定しているかどうかの観点で分析することが重要です。

事業分析は事業系統図・SWOT分析・シナジー効果分析を利用せよ!

事業分析の目的は、ターゲット企業の事業構造について理解することです。そのため、事業系統図の作成とSWOT分析を通して、ターゲット企業の事業上の課題や、特徴を理解するとともに、期待できるシナジー効果も分析することが大切です。

事業系統図の作成

事業系統図とは、ターゲット企業における仕入から売上に至るまでのビジネスの流れ(商流)を図で表したものです。事業系統図を作成することによって、ターゲットとなるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人の事業の全体像や、商流の特徴を理解することができます。主要な製品ごとに系統図を作成することがポイントです。

SWOT分析

SWOT分析とは、ターゲット企業の強み(Strength)、弱み(Weakness)、ターゲット企業を取り巻く外部環境の機会(Opportunity)と脅威(Threat)を整理し、戦略の方向性や事業上の課題を抽出して分析する方法です。

この分析を通して、戦略の方向性が買い手企業側の戦略にマッチするのか、事業上の課題はM&Aや経営への介入を通して解決できるものなのかということを把握でき、買収の魅力度をより詳細に調べることができます。

シナジー効果分析

まだ初期分析ではありますが、おおざっぱでもシナジー効果の抽出を行っておくと、買収の魅力度をより詳細に把握することができます。

期待できるシナジー効果の検討を行うには、あらかじめ想定できる売上シナジーとコストシナジーを、バリューチェーンに沿って整理した買い手企業のフレームワークを用意し、それぞれのシナジー効果がターゲット企業の買収により実現できる見込みがあるかを個々に検討するのがよいです。

リスク分析は事業系統図・SWOT分析・シナジー効果分析を利用せよ!

財務分析や事業上のシナジー分析は、会社の成長や利益の向上を実現するためにとても大切ですが、リスク分析もそれと同等かあるいはそれ以上に大切です。

ターゲットとなるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人が抱えているリスクや、M&Aに伴って顕在化する恐れがあるリスクを想定することにより、M&Aが成立した後に生じうる問題を未然に防ぐことができます。

M&Aは成長を実現するための策ですが、それによって会社が不利益や事業上のリスクを被ってしまっては元も子もありません。そうした事態を防ぐためにも、初期分析としてリスク分析を行うことはとても大切なのです。

ではM&Aにおいてターゲット企業が抱えるリスクとは何でしょうか?企業の規模や事業内容によってさまざまなリスクが考えられ、すべてを例示することはできません。しかしこのコラムでは、想定されるリスクの中から代表的なリスクを、可能な限り紹介していきたいと思います。

業績が急激に低迷、悪化していないか

業績の低迷や悪化が急激な場合に考慮すべきリスクとして最大のポイントは、そもそもクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人が施設、法人として継続可能かどうかということです。また、会計面について注意するべきポイントとしては、粉飾決済が挙げられます。架空売り上げの計上や在庫操作、減価償却費や引当金の過少計上に注意して分析することが大切です。

資金繰りが悪化傾向にないか?

資金繰りが悪化傾向にある場合には、業績悪化と同様に企業の継続が可能であるか、粉飾決済が起こってないかといったリスクが伴うので注意が必要です。キャッシュフローの推移を検証することによって、資金繰りの状況を分析することが必要です。

子会社や関連会社がないか?

子会社や関連会社がリスクの温床となっているケースは多いため、慎重な調査が必要です。想定できるリスクとしては、子会社や関連会社の業績悪化による保有株式の減損リスク、子会社や関連会社を利用した循環取引リスク、子会社等への債務保証と当該子会社等の業績悪化による要取引リスクなどが挙げられます。

こうしたリスクを発見するためにも、買収対象となるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人と子会社やグループ会社等との取引内容や経営状態について、しっかりと調査をすることが必要です。

過去に合併、分社などの組織再編を行っていないか?

ターゲット企業が過去に組織再編を行っている場合、事業構造に大きな変化が生じている可能性が高いです。その再編がよい方向に作用している場合は問題がないのですが、かえって悪い方向に向かっているケースもあります。

特に合併を行っている場合には、うまく経営統合が達成されずに業務が非効率化して、従業員のモチベーションも下がっている場合があります。組織再編の経緯と経過についても調査を行い、経営に重大な問題を生じさせていないかを未然に発見することが大切です。

大口取引先との取引関係に不安はないか?

大口取引先との取引にも大きなリスクが潜在していることがあります。主要なものとしては、大口取引先の貸倒リスクや大口取引先による取引停止リスクがあります。

どちらも経営上に大きなインパクトを持つリスクであり、場合によっては大口取引先の信用リスクについても調査することが必要です。

親会社や関係会社から間接業務等のサービス提供や幹部社員の派遣を受けていないか?

買収対象となるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人が親会社や関係会社などのグループ会社から、間接業務等や幹部役員、医師や看護師といった医療従事者の派遣を受けている場合、基本的にはM&A後にそうした派遣支援を受け続けることはできないため、注意が必要です。

グループ企業からサービス提供や人材派遣を受けている企業が、単独の企業として独立する際に事業が成立するのかどうかという問題を“スタンド・アローン問題”と言います。

特に、M&Aを通した事業譲渡や会社分割によって、企業内の一事業部として営まれてきた事業を切り出す場合には、この“スタンド・アローン問題”により注意して分析することが大切です。

オーナー一族との継続的な取引関係はないか?

特に、買収対象となるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人が非上場企業の場合、ターゲット企業とオーナー一族との間で不動産貸借などの継続的な取引関係があり、しかもその取引が高コストになっている場合があります。

買い手企業様の立場からすると、こうした取引関係は早期に清算したいものですが、その取引関係が早期に清算できるかどうかの可能性を分析することが大切です。

株主は分散していないか、また株主との関係はどうか?

買収スキームとして株主譲渡を選択した場合、株主が分散していると株主の買い集めがスムーズに行えないというリスクがあります。また、関係が良好ではない株主がいる場合にも、同様のリスクがあるといえます。

スムーズに株券の回収を行うためにも、特に株主が分散している場合には、所在の不明な株主がいないか、また株券を紛失している株主がいないかどうかを調査しておくことが重要です。

重要な契約に“チェンジ・オブ・コントロール条項”が含まれていないか?

“チェンジ・オブ・コントロール条項”とは、M&Aによって買収対象企業の所有者が変わった時に、契約が解除されるという条項です。大口取引先との取引基本契約や、重要な技術のライセンス契約等の、事業を営む上で根幹ともいえるような契約があるときに、特に注意が必要です。

過去に人員削減等のリストラを実施していないかどうか?

過去に早期退職の募集や人員整理・解雇等のリストラを実施している場合は特に、従業員と経営者との間でトラブルが生じているというリスクがあるため、注意が必要です。従業員との間にトラブルや手続きに欠陥があった場合には、M&Aを機に紛争が再燃する場合があるためです。

労働組合との関係は良好か?

M&A後の経営統合をスムーズに行うためにも、労働組合との関係が良好であるかどうかを調査することは重要なポイントです。ただし、労働組合がない場合にも、M&Aをきっかけとして急遽組合が発足する可能性もあるため、従業員と経営陣との関係に対しては特に慎重に調査することが大切です。

まとめ

いかがだったでしょうか?ターゲット企業のM&Aの善し悪しを決める手法として、財務・事業・リスク分析の3つ切り口を紹介しました。特にどの分析も専門性が高く、医師や薬剤師の方には難しい話だったと思います。

特に弊社では、クリニックや薬局、介護施設などの医療機関や医療法人のM&Aを中心とした豊富な経験、幅広い知識を活かしお客様の様々なご要望・疑問にお応えすることが可能です。M&Aに興味をお持ちの企業様は、お気軽に弊社までご連絡ください。

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