【クリニックM&A】医療機関買収時の価格計算・バリュエーションとは?

クリニック買収時のバリュエーション

クリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人のM&Aを解説していくシリーズ第5回です。本シリーズでは、実際に買収先を選定し交渉、契約に至るまで時系列でわかりやすく解説しているので、ぜひ他記事もご覧ください。

  1. 【クリニックM&A】フィナンシャルアドバイザー(FA)の役割とは?
  2. 【クリニックM&A】買収先企業へのアプローチ時の4つの方法
  3. 【クリニックM&A】クリニックの買収提案書の作成とコンタクト時の対応のコツ
  4. 【クリニックM&A】買収するターゲット企業の分析方法
  5. 【クリニックM&A】医療機関買収時の価格計算・バリュエーションとは?(本記事)
  6. 【クリニックM&A】医療機関のバリュエーション、DCF法を解説!
  7. 【クリニックM&A】医療機関のバリュエーション、時価純資産法を解説!

第4回コラム【クリニックM&A】買収するターゲット企業の分析方法では、買収を提案するターゲット企業が定まった後に行うべき、財務・事業・リスクの3つの分析について解説しました。

M&Aを実行するにあたって、買収対象のクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関買収対象のに対する初期分析が終わった後に行うことは、“企業価値評価(バリュエーション)”です。

本記事には、バリュエーションそのものの考え方や具体的な計算方法を解説致します。

なぜバリュエーションは行う必要があるか?

買収先企業の分析を終えて、買収対象となるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人に対して買収を提案するという方針を決めたあとには、いよいよバリュエーションを行う段階へと入っていきます。バリュエーションによって買収金額の目安を計算して、買収の可能性や規模感をより正確に把握するためです。買収を進めていく上での予算に見合っていなければ、他の条件がすべて良くてもM&Aは成立しません。ターゲット企業が実際にいくらぐらいで買収できるか、その価格は予算以内に収まるのかということを確かめることが、バリュエーションを行う意味となっています。

M&Aにおいてバリュエーションを行うことは専門的な知識を必要とするため、FAが担う役割の一つです。しかしながら、M&A担当者様もバリュエーションを自ら行うことが大切になってきます。なぜなら、企業価値に対する感覚を養うことが重要となるからです。

企業価値は株式価値と債権者価値の合計

一口に“企業価値”といっても、その定義は曖昧なことがほとんどです。そのため、ここではまず、企業価値の定義を正確に確認するところから始めていきたいと思います。

M&Aやコーポレートファイナンスの世界では、企業価値の定義は明確です。つまり、企業価値とは、企業が将来にわたって生み出すと期待されるキャッシュフローの現在価値合計額を意味し、以下のような式で表すことができるのです。

企業価値=株式価値+債権者価値

株式価値は株主、債務者価値は債権者に帰属する価値

企業価値は、“株式価値と債権者価値の合計”と定義されるとお伝えしました。では、企業価値を構成する“株式価値”と“債権者価値”とはそれぞれ何を示すのでしょうか?

株式価値とは、企業が生み出すキャッシュフロー(企業活動などによって得られた収入から支出を引いて、手元の残る現金)のうち、株主に帰属するキャッシュフローの現在価値合計額を指します。簡単に言えば、株式価値とは会社の総価値である企業価値のうち、株主に帰属する価値です。ターゲット企業が上場企業の場合は、株式時価総額がその目安となります。基本的には、創業者やその幹部・家族が株を所有いるため、彼らが株式価値の所有者となります。

債権者価値とは、企業が生み出すキャッシュフローのうち、債権者に帰属するキャッシュフローの現在価値合計額を指し、準有利子負債の額がその目安となります。基本的に債権者とは銀行などの金融機関であり、簡単に言えば債務者価値は債権者に帰属する価値です。

企業価値と株式価値は異なるのがポイント

企業価値を理解するうえで押さえていただきたいポイントは、企業価値と株式価値は同義ではないということです。M&Aにおける株式の値段は株式価値を指しますが、買収金額という場合には一般的に、買収対象企業の債権者価値を含めた企業価値を示す場合が多いのです。つまり、バリュエーションの際に、債権者価値も考えるということが大切なポイントとなります。

株主価値は純資産と営業権から計算する

貸借対照表から企業価値を考えてみましょう。貸借対照表の“純資産の部”の金額が、いわゆる簿価純資産です。

そこに、資産・負債を時価に置き換えて含み損益を加味したものが、いわゆる時価純資産です。貸借対照表の数字は帳簿に登録するときの価値(簿価)であり、現在の値つまり、時価純資産額とは、過去から現在までの価値を表したものであり、将来のキャッシュフローは入っていません。今赤字の会社でも、将来大きな利益を出す会社のバリュエーションが高くなると説明すると分かりやすいと思います。

将来の価値はいわば“営業権(のれん)”であって、つまり時価純資産額に営業権を加えたものが株式価値ということになります。

株式価値 = 純資産(簿価→時価に計算) + 営業権(将来のキャッシュフロー価値:のれん)

先述の通り、株式価値とは会社が将来的に生み出すキャッシュフローのうち、株主に帰属する分の現在価値合計額を指したものです。ここに、債権者に帰属するキャッシュフローの現在価値合計額としての債権者価値を加えたものが企業価値となるのです。

では次に実際に企業価値を計算する3つのアプローチを見てみましょう。

企業価値評価の3つのアプローチ

企業価値の評価方法には、“マーケットアプローチ”“インカムアプローチ”“コストアプローチ”という3つのアプローチがあります。実務では、それぞれのアプローチを併用することがほとんどであるため、M&A担当者様は、それぞれのアプローチに対する基礎知識を理解することが必要です。

このコラムでは、それら3つのアプローチについて特徴を取り上げながら、わかりやすくご紹介していきたいと思います。

①マーケットアプローチは類似企業の比較

“マーケットアプローチ”とは「株式市場での市場価格をベースに評価する評価方法」です。評価対象のクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関を運営する企業が上場企業であれば、ターゲット企業の市場価格をベースに評価し、ターゲット企業が非上場企業の場合は類似上場企業の市場価格をベースに評価します。

マーケットアプローチは、株価をベースに評価するため、最も客観的にかつ公正に判断することができる方法と言えます。

そのため、上場企業あるいは類似の上場企業が存在する非上場企業に対する評価においては、もっとも重視される評価アプローチですが、注意も必要です。市場価格が一時的に異常な動きを見せることもあるからです。

そのため、一定期間の株価の平均値を調べ、その価値を評価対象とするなどをして、一時的な要因に左右されずに価値判断を行うことが大切です。

また、当然ながら医療法人は基本的に未上場ですので、医療法人に対して企業価値評価を行う際に、マーケットアプローチは適さないという弱点もあります。

②インカムアプローチは収益ベースに計算

“インカムアプローチ”とは、「収益力をベースに評価する評価方法」です。インカムアプローチによる企業価値評価の代表的な方法は“DCF法”です。

DCF法とは、「評価対象会社の将来期待される一連のキャッシュフローを、それが実現するのに起こりうるリスク等を反映した割引率で現在価値に割引いて株価を計算する評価方法」です。

DCF法は、ターゲット企業の詳細なキャッシュフロー計画に基づくため、様々なシナリオや変動要素に対して柔軟にシミュレーションを行うことができる点に特徴があります。

しかしながら、注意するべき点もあります。DCF法を実行するうえで、将来のキャッシュフローの見通しには主観的な部分も入り込むため、恣意的な判断も可能になってしまうからです。そのため、DCF法を行う際には合理的な論理に基づく評価を下すことが大切になります。

③コストアプローチは純資産を元に計算

コストアプローチとは、「純資産をベースに評価する評価方法」です。つまり、貸借対照表の資産、負債の時価を評価することによって企業価値を評価します。

貸借対照表は、いわば過去から現在までの収益の結果が蓄積・反映されたものではありますが、将来の収益に対する見込みは一切反映されていません。

そのため、コストアプローチは評価対象会社の事業が永続することを前提とする場合には、単独で利用することは合理的ではないということに留意する必要があります。

評価アプローチ間にはばらつきがある?

これまで、企業価値評価の3つのアプローチをご紹介してきましたが、各アプローチでの算定結果にはばらつきがあり、一般的には以下のような序列があることに注意が必要です。

コストアプローチ<マーケットアプローチ<インカムアプローチ

なぜこのような序列が生まれるのかというと、コストアプローチには将来的に見込まれる価値(営業権)が織り込まれていないため、マーケットアプローチには、企業の支配権(議決権の過半数)を獲得する際に認められる、”コントロールプレミアム”が織り込まれていないため、インカムアプローチは企業が将来生み出すキャッシュフローをベースとしており、理論上は営業権やコントロールプレミアムが織り込まれているためという3つの理由があります。

このように、各アプローチの間にはばらつきがあることに留意すること、そして各アプローチで企業価値を評価したあとに上記のような序列がなりたっているかを確認することが大切です。

実際のM&Aのバリュエーションでは、複数のバリュエーションを実施してそれらを値を比較しながら実際の企業価値を決定します。

まとめ

いかがでしたか?企業価値の計算をするにあたり、企業価値評価や株式価値、債権者価値という考え方や、3つのバリュエーション手法ついてご理解いただけたと思います。

弊社では、クリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人のM&Aに対する豊富な知識と経験から、医療機関のバリュエーションに関しても的確にアドバイスすることが可能です。M&Aをご検討の企業様は、是非お気軽に弊社までご連絡ください!

お問い合わせ(無料)

    個人情報の取扱いについてご確認後、「同意して確認画面へ」ボタンを押してください。
    必須お客様の属性
    必須業種(法人)/職種(個人)
    任意会社名
    必須お名前(漢字)
    必須メールアドレス
    任意電話番号
    必須問い合わせの分類 買収売却その他事業再構築補助金支援
    必須お問い合わせ内容
    お申し込みの前に、個人情報の取扱いについてご確認いただき、同意の上お申し込みください。
    個人情報の取り扱いについて