【クリニックM&A】医療機関のバリュエーション、時価純資産法を解説!
クリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人のM&Aを解説していくシリーズ第7回です。本シリーズでは、実際に買収先を選定し交渉、契約に至るまで時系列でわかりやすく解説しているので、ぜひ他記事もご覧ください。
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前回のコラム【クリニックM&A】医療機関のバリュエーション、DCF法を解説!では、クリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人に対してM&Aを行う際の企業価値算定(バリュエーション)を行うにあたって、そのアプローチ方法であるコスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、・インカム・アプローチのそれぞれの特徴や、その三つのアプローチ方法間の関係について説明しました。
このコラムでは、バリュエーションの一つであるコスト・アプローチで使われる”時価純資産法”について解説していきたいと思います。
コスト・アプローチで使われる時価純資産法とは?
では、時価純資産法とはいったいどのような手法なのでしょうか?名前から、なんとなく想像はつくと思いますが、ここでは具体的に解説していきます。
時価純資産法とは、「評価時点における会社の有する資産の時価より負債の時価を控除して株主価値を評価する方法」のことを言います。簡単に言えば、買収ターゲット企業が保有している資産の時価から、負債の時価を控除して、株主価値を算定しようという手法なのです。
ただし、本来は貸借対照表(B/S)に計上されていないような無形資産(知識や技術など)についても、しかっりと識別して評価し、時価純資産額の評価に反映するべきではあるのですが、実務上は無形資産を認識することが困難であるため、有形資産のみを評価額に反映することが多いです。こうした、有形資産のみを時価修正した額から負債の時価を控除して時価純資産額を算出する方法は、修正簿価純資産法とも呼ばれます。
そのため、企業価値算定(バリュエーション)を行う実務の上では、時価純資産法を単独で使用するのではなく、インカム・アプローチやマーケット・アプローチと併用して使用することが多いため、注意が必要です。
また、時価純資産法は、大きく”再調達原価法”と”清算価値法”の二つの方法に分けられます。
再調達原価法とは、評価の対象となるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人が展開している事業と同様の事業を立ち上げるために必要な投資金額を算定する方法です。
一方で清算価値法とは、評価の対象となるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人を清算することを前提としていて、評価対象のクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人をその時点で清算換金したと仮定して株主の手元に入る資金額をもって株価を算定する方法です。
通常のM&Aでは、評価対象となるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人の清算は予定されていないため清算価値法ではなく再調達原価法が採用されることが一般的です。
時価純資産法を実行する上の3ステップ
時価純資産法の実務においては、
- 資産時価の算定
- 負債時価の算定
- 株主価値の算定
の3つのステップがあり、それぞれのステップに対して留意点があります。
ステップ1”資産時価の算定”
前回のコラムでも解説したように、クリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人に対して時価純資産法を使用する際にはまず、対象のクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人が有する資産を、時価に修正しなければなりません。
その際に、貸借対照表(B/S)上の勘定科目ごとに時価評価を行うのですが、ここからは主に時価評価される資産勘定について、時価評価を行う際の留意点を解説していきたいと思います。
売掛金、受取手形
売掛金、受取手形を時価評価する際の留意点は、不良債権を見極めて、その不良債権分を減額するということです。過去3~5期分の取引先別債権残高を比較して、増減の大きな取引先があればその原因を明らかにして異常性がないかを確認します。
これは、対象が医療機器メーカー等であるM&Aの実務において特に注意が必要なのですが、債権残高が大きい販売先に対しては一社づつ取引実態をよく確認し、サイトの長い販売先や入金状況の良くない販売先については、貸倒リスクを個別に評価することが必要になります。
棚卸資産
棚卸資産を時価修正する際に留意するべきポイントは、不良在庫を見極めてその不良在庫分を減額するということです。
これも特に、医療機器メーカーを対象としたM&Aを行う際に言えるのですが、財務DDを担当する会計士では商品の目利きができないため、正確な判断をするためにも買い手企業様の担当者が自ら行うべき項目です。
有価証券
買収の対象となるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人が保有していて、上場株式等、取引相場のある有価証券を時価修正する際には、評価基準日時点での時価で評価します。
一方で、取引相場のない非上場株式の評価については、取引先の決算書が入手できれば純資産評価を行いますが、入手できない場合には簿価で評価することが多いです。
建物、建物付属設備、構築物
対象のクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人が保有する建物、建物付属設備、構築物の時価評価を行う実務上では、過年度の適正な減価償却費を反映した簿価を時価とみなすことが多いです。
また、圧縮記帳が行われている場合は、簿価が圧縮されているため適正な償却を受けた簿価にはなっていません。そのため、圧縮記帳がなかったものとして、償却計算をやり直して適正な簿価を算定しなおすことが必要です。
機械装置、工具器具備品
機械装置、工具器具備品の時価評価についても、建物、建物付属設備、構築物と同様に実務上では、過年度の適正な減価償却費を反映した簿価を時価とみなすことが多いです。
また、これも建物、建物付属設備、構築物と同様なのですが、圧縮記帳が行われている場合は、圧縮記帳がなかったものとして、償却計算をやり直して適正な簿価を算定し直すことが必要です。
土地
土地の時価評価を行う上で、適正な時価評価を行うには不動産鑑定評価をとることが理想的ですが、そのためにはコストがかかります。そのため、簡便的な方法としては、固定資産税評価額を70%で割り返すことや、路線価評価を80%で割り返して、その額を時価とみなすことが一般的です。
営業権
他社からの事業譲受によって生じた営業権がある場合には、減損テストを行って時価評価を行います。評価対象会社自身の営業権に対する評価は、時価純資産法のなかでは行わずに、DCF法によって算出した評価額と、時価純資産額との差額がプラスとなった場合に、その差額を営業権とみなすのが一般的です。
繰延税金資産
繰延税金資産の時価評価を行う留意点は、課税所得の見通しに基づいてスケジューリングを行って回収可能性を判定し、回収の可能性が低いと判断される部分に対しては、評価減するという点である。
例えば、毎期課税所得が将来減算一時差異を超えていない場合には、スケジューリングができない一時差異は評価上減額する必要があります。
つまり、税務上損金算入の時期が明確ではない一時債に対しては、注意が必要であるということです。
ステップ2”負債時価の算定”
今まで解説してきた点に留意しながら、資産時価の算定が終わったら次は負債時価の算定を行います。負債時価の算定も、資産時価の算定を行った際と同様に、勘定科目ごとに行います。
ここでは、負債時価の算定の実務上の留意点を、勘定科目ごとに分けて解説していきたいと思います。
有利子負債
長短借入金、社債などの有利子負債は、基本的に会社側に返済の義務があるため、その額面を時価とみなすことが一般的です。
しかし、非上場であるクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人で、オーナーや理事長からの借入金があり、M&Aを機にその債権を放棄することが明らかである場合には、その分を減額評価することになります。
賞与引当金
賞与引当金が計上されていない場合には、次回賞与に必要な金額を見積もって、引当金として認識する必要があります。
退職給付債務
従業員退職金の引当不足の金額がある場合は不足額を簿価に加算します。役員退職慰労金については引当されないケースが多いです。役員退職慰労金は、役員退職慰労金規定や過去の支給実績をもとに評価基準日時点の要支給額を算定し、負債として認識することが必要となります。
簿外債務
価値算定の時点ですでに簿外債務となっている債務が顕在化している場合は債務として認識します。例えば、関係会社向けの債務保証を行っている場合などは、当該関係会社が破綻する危険性が高い場合に保証債務の見学を債務として認識する必要があるからです。
ステップ3”株主価値の算定”
ステップ1で資産時価を算定し、ステップ2で負債時価を算定したら最後にステップ3である”株主価値の算定”を行います。
時価純資産法における株主価値とはズバリ、資産の時価合計額から、負債の時価合計額を引いた額のことである。
株主価値=資産の時価合計額-負債の時価合計額
また、1株あたりの評価額を算出する場合には、時価純資産額を自己株式を除く発行済株式総数で割ります。
まとめ
いかがでしたか?前回のコラムと合わせてクリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人に対してM&Aを行う際の、企業価値評価(バリュエーション)を行う手段の一つである時価純資産法についてご理解いただけたのではないでしょうか。
弊社では、クリニックや薬局、病院、介護施設などの医療機関や医療法人のM&Aに対する豊富な知識と経験から、医療機関のバリュエーションに関しても的確にアドバイスすることが可能です。M&Aをご検討の企業様は、是非お気軽に弊社までご連絡ください!